連載 第1話|『渋谷カルチャー半世紀〜公園通りのネコは語る〜』


渋谷PARCOが公園通りに登場して51年。PARCO出版の設立から50年。パルコが半世紀にわたり見つめてきた渋谷の街と、それを取り巻くカルチャー談義を大学生の文ちゃんとネコ先生が愉快にお届けします!
【登場人物】
ブンちゃん
大学生。卒論のためにネコ先生から渋谷周辺の文化を学ぶ。
ネコ先生
渋谷に長年住み、カルチャーの変遷を眺めてきた。
人間の年齢では66歳。
PARCO出版のInstagramで不定期連載中!





ネコ先生による用語の詳しい解説
●ピーター・マックス(1937年~)
1970年代のPOPアートを象徴するイラストレーター。アメリカ在住、実はベルリン生まれのユダヤ系ドイツ人。『THE BEATLES YELLOW SUBMALINE』のアートワークにも影響を与えている、と思うのはわたしだけではない。
●アメリカ軍
太平洋戦争敗戦後、アメリカ占領軍の住宅施設「ワシントンハイツ」が現在の代々木公園周辺にあった。1946年から1964年東京オリンピック選手村建設のために完全に返還されるまで存在。教会、劇場、野球場なども併設。渋谷区面積の16%を占めた。
●植草甚一(1908(明治41年)-1979年(昭和54年))
映画、ジャズ、英・仏文学の評論、エッセイスト、コラムニスト。70年代の著作は多くの若者ファンを獲得。長く世田谷区経堂に住み、渋谷はその散歩のルートで渋谷パルコの館内にもよく出没。残した膨大な日記はまさにカルチャーカタログであった。
●澁澤龍彦(1928年(昭和3年)-1987年(昭和62年))
その人生はほぼ昭和と併走。膨大な蔵書にパルコ出版の書籍も4冊含まれている。澁澤の紹介、創作したジャンルは異端と称されたが今では主流となって大きな足跡を残した。北鎌倉の自宅書庫はパルコブックセンターのポスターに撮影された。
●渋谷パルコ
開業1973年6月14日(木)池袋パルコに次ぐ2番目の出店。店舗の内容以上にその宣伝プロモーションが東京、渋谷に与えたインパクトは大きかった。上層階の西武劇場も商業施設に付帯する劇場というハードではなく安部公房、寺山修司、唐十郎という提供したソフトに意味があった。渋谷の街、若者ターゲット、メディアの変化の中で変革を求められたパルコのフラッグシップは2019年11月に建替え開業。21世紀のパンデミックを越えて、そのハードだけでなくコンテンツによって全世界的な集客拠点となった。
●ジァンジァン(ジャンジャンと読む)
東京山手教会の地下にあった小劇場。西武劇場、渋谷公会堂、NHKホールと70年代渋谷の劇場文化の集積を担う。イヨネスコ『授業』、高橋竹山ライブなど定番公演は新宿、銀座地区の演目とは異質な「対抗文化」であった。が、20世紀の終焉に合わせるように、その先端的な活動は終了。
●モデルだって顔だけじゃダメなんだ(1975年:AD石岡瑛子、C長沢岳夫、P横須賀功光)
パルコ広告の代表作、だけでなく日本の商業広告のひとつの頂点。モデルの視線は「見る者」と交わらない点も革命的。対となる「ファッションだって真似だけじゃダメなんだ」と遠くを見るモデルの連作CFとポスターは、長くパルコ広告のイメージとなる。それがパルコのイメージかどうかの議論も含めこの傑作は50年の生命を持ち続けている。
●オイルショック
1973年第4次中東戦争(イスラエルVSアラブ諸国)の影響により石油の輸入量が激減し価格も大幅に値上り。文字通り「油断」していた当時の日本は備蓄も少なく石油に依存していた多くの産業分野で物価高騰と物不足のパニックを引き起こした。トイレットペーパー争奪は有名だが、照明も規制され蛍光灯の間引きなどで街路やビル内は暗くなった。開業直後の渋谷パルコでは真っ暗な公園通りの中、唯一イルミネーションを点灯。猫も記憶している。これは増田氏の「今こそ目立つように」という英断との伝説。
●パルコピクチャーバックス
パルコ出版70年代80年代のシリーズ。「芸術の生成と都市の生成を往還する記憶装置」のテーマで『ポップマニエリズム』『アール・デコ』など美術分野でスタートするが、『建築のパフォーマンス』『近代建築のアポリア』や都市論『乱歩と東京』、『マジカル・ヘアー』『電子デザインの詩学』など広範なテーマを発行。翻訳だけでなく赤瀬川原平、種村季弘、磯崎新などの著作を38点刊行。既存の美術出版は「印象派」「ギリシャ彫刻」などのタイトルが中心で、また東京論などマイナーなテーマを採りあげたことは「先端的」「挑戦的」出版社を印象付けた。
●PARCO VIEW
石岡瑛子プロディース『七彩夢幻』は写真集からCF、ポスターにメディアを拡大展開した大型企画となった。このパルコアート制作スキームは、PARCO VIEWのタイトルで『水の皮膚 沢田研二写真集』『NUBA レニ・リーフェンシュタール写真集』を連作しパルコ出版の代表作となる。以降もアーティスト、クリエイター、作家コラボレーションなど独自の路線としてシリーズ化された。20点刊行。東逸子、ペーター佐藤、合田佐和子の気鋭のイラストレーター。写真家、荒木経惟、繰上和美のコンテンポラリーな作品集に加え1920年代の画家タマラ・ド・レンピッカを紹介した『肖像神話』は話題となる。
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■原作:タナマサ
パルコの中の人。社内の生き字引的存在。将来の夢は書店店主になること。
■マンガ:しまだたかひろ @tkhr_smd
イラストレーター、1994年滋賀生まれ。東京都在住。
主に出版物、Webを中心に活動。
編集:PARCO出版 編集部