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PARCO出版

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「友情もあるねぇ。〜書店員と作家とこどもとみんなたち〜」  連載第9回 花本 武(ソーダ書房)

「友情もあるねぇ。〜書店員と作家とこどもとみんなたち〜」
連載第9回 花本 武(ソーダ書房)

書店員&詩人・花本武(社長)と、作家・山崎ナオコーラ(副社長)の二名で構成された、稀有な組み合わせの夫婦ユニット「ソーダ書房」による初連載。 社長による「詩とエッセイ」、副社長の「解説」で交互に綴る、書店や作家業、育児のことetc. 隔週月曜日更新予定

 


「とんでもない体」


とんでもない体した
ろくでもない奴やってきた
あそばせろよとさわぐから
あそんでろよとほっといた


しばらくしたらこっちきて
おまえもあそべとさわぐから
仕事を辞めて服ぬいだ


おまえの番だと言いだして
棍棒わたされたじろいで
はやくしろよとせかされて
ぶんぶん振ったらわらってた


この石を打て
走りだせ
どろんこになれ
水を飲め
お風呂にはいって
ぐっすりねむれ


全動物が起きたらば
あいつは山からおりてくる

「友情もあるねぇ。〜書店員と作家とこどもとみんなたち〜」  連載第9回 花本 武(ソーダ書房)

 カズはすごい。サッカーの三浦知良選手は51歳にして現役Jリーガーだ。私は御年41。信じられない。10年後の体力を想像してみよう。いや、やめよう、無益だ。雑誌のナンバーがサッカーベテラン特集ということでカズをカバーに持ってきてフィーチャーしている。皺は増えたようだ。老けてはいる。とてもとても良い老け笑顔になっている。


 カズのことは良く知っているのだ。なぜか。ファンだからだ。にわかファン。本当に大好きになったのは割と最近なんだが、ずっと前から注目はしていた。今は好きというか尊敬している。私は様々なジャンルにおいて誰かの、そして何かのにわかファンなのである。


 赤坂真理さんが『愛と暴力の戦後とその後』という本を出版した際に、選書フェアを企画した。その本が初めて読む赤坂さんの本だった。依頼のメールをしたら、このくらいの時間にこの番号に電話をしてください、直接話しましょう、と返信があり凍った。これはかなりの緊張を要する。赤坂さんに硬質なイメージしかなかったから。生半可な気持ちで説得できるような相手ではないだろう。
 ともあれ意を決して、電話越しに本の感想を伝え、フェアの意図をしどろもどろで説明すると、あっさりお引き受けいただくことができた。でそれから、赤坂さんの既刊を読まねばなるまいとおもって話題作『東京プリズン』を手にした。付け焼刃な感じだ。読後しばしこの小説のことしか考えられなくなる。脳裏にへばりつく作品。これはすごいなあ、すごいの書いた人と電話したなあ、という感慨も沸く。
 なんかもうむしろ俄然会いたくなってきた。かつての池袋リブロで赤坂さんと内田樹さんのトークイベントがあり、参加することにした。いまは荻窪でタイトルという本屋をやっている辻山さんが当時在籍されていてイベントを担当していた。赤坂さんの選書フェアは意図的にリストを公開して拡散されることを目的の一つにしていた。それに反応してくださった辻山さんがフェアを行い、赤坂さん書き下ろしコメントを掲載したペーパーをイベントで配布したいと言ってくれた。というわけでペーパーを作成したおかげでイベントに招いてもらえたのだ。
  トークを堪能後、図々しく打ち上げにもまぎれた。おー、鈴木邦男がいる!と興奮した。懇意の編集者が見沢知廉に縁のある本を出したことがあり、その話を鈴木氏にふったのが興奮の極みだった。
 後日赤坂さんが来店されたおり応接室にご案内した。


 「私は赤坂さんのにわかファンなんですよ。『愛と暴力の戦後とその後』と『東京プリズン』しか読んでなくて」


 「にわかファン大歓迎です」


 にわかファンもここまでくれば立派なものだ。


 小学校の卒業アルバムにとても印象的な卒業文がある。小林さんという女子が書いたもので、その内容がカズなのだ。ブラジルでもまれているカズを讃えていた。イラストも添えて。小林さんは恐らく今もカズのファンだろう。小学生のころから追っているスポーツ選手が今も現役って、これはもう冥利に尽きる。


 Jリーグの開幕セレモニーが忘れられない。でっかいボールが割れて中からカズがとびだし、股間をぐっとつかむあのポーズを決めた。なにかどえらいことがはじまるんじゃないか、と期待させるに充分な演出だった。でも私がカズのファンになるのはまだだいぶ先。選手としての絶頂期を過ぎて、ニックネームの頭にキングが付きはじめる頃だ。

 気になりはじめるきっかけはやはり「本」だ。2005年の著作『おはぎ』が同僚とのあいだで物議をかもした。中身を読んでのことではなく、サッカー選手が出す本としては異例の奇妙なタイトルに加え、ジャケットのインパクトが凄かった。かっこよくバリっと仕立てたスーツに中折れ帽のカズが夕陽を浴びて明日の方向を見ている。背よりも高く掲げた出で立ちと不釣り合いな幟には、赤い毛筆で「おはぎ」と大書きされている。わけがわからない。その後、カズの大好物が「おはぎ」であることは判明したのだが、それにしても、だ。
 カズ信者になることを決定づけたのはベストセラーになった『やめないよ』である。この本が出たとき私はウェブ本の雑誌で横丁カフェという書評連載をやらせてもらっていた。もうノリノリで取り上げさせてもらった。もし興味のある人がいたら検索してください。と、まあ小林さんに比べたらにわかファンだけれども、私よりもっとにわかな人もいっぱいいるでしょう。


 そんな私も実はサッカーをずっとやっていたんですが、サッカーというスポーツに対してはいろいろまぜこぜなおもいがある。


 小学三年のときからサッカーをはじめて、高校三年の途中で膝を怪我するまでやった。怪我のあとは全力で走ることができなくなって、もうサッカーはやるまい、とおもっていた。


 同級生で仲の良かった田中君がサッカー部に入るというので自分もやろう、とおもった。大一ファイターズ。毎週月曜と木曜に16時から18時まで校庭で練習した。顧問の先生も保護者もみんな熱心なチームで、その地域ではかなりの強豪だった。
 日曜日に遠征して、他の学校のチームと試合しに出かけることも多かったし、合宿もあった。小学校のときにあちこちに行ったそのほとんどが大一ファイターズご一行だ。
 サッカーの魅力にめざめてメキメキ上達しては、いかなかった。サッカーに限らずどうも球技に向いてないようであることが次第にわかる。が悩んで退部をかんがえるようなこともなく、チーム内で存在感がないのになぜかつづいた。さっき書いたようにやたら遠征があるんだが、私はベンチ要員ですらないのに、必ずついて行った。
 献身や情熱でもなく、かと言って意地じゃないし、惰性とも違う。なぜあのころ自分は膨大な時間を大一ファイターズに費やしたのだろう。チーム卒業の集まりにおいても顧問に皆勤ぶりを讃えられた。花本はいっつもいた、と。なんとも微妙な評価だな、とおもわざるをえない。
 ただ私は自分なりの楽しさを見つける術は得た。細部の細部におもしろさがあることを学んだのだ、こどもごころに。それは、遠征で電車に乗るときにあてがわれた切符の隅の4桁の数字を10にする方程式。カチコチに凍らせたポカリスエットとみかんの缶詰。先輩がくれたよくわからないポルトガルのチームのミサンガ。合宿で一気飲みした牛乳とお茶とみそ汁と他なんだかいろいろまぜたスペシャルドリンク。etc


 中学生になってもサッカー部に入り、三年間つづけた。早起きが苦手な私には朝連がきつかった。結局ずっとベンチウォーマーだったが、卒業するころにはずいぶん上達していた。


 高校ではサッカーはやらないつもりだった。もういいかな、と。がグランドで練習しているサッカー部員の様子を見ていて、気が変わった。ここでならレギュラーだな、という感じだったのだ。入部するとやはり活躍の機会があった。やっとサッカーそのものを楽しめるようになったのだ。顧問の先生も一年のときから自分を買ってくれたので、私も練習に励み、ポジションを確保した。期待され、当然それに応えたくなる。ますます努力をする。


 日本サッカーの盛り上がりとも並行していた。Jリーグが開幕、アメリカワールドカップ開催。これまで少し斜めに見ていたサッカーというものが素直に好きになった。プロの試合を観戦することも俄然楽しい。


 もっと上手くなるには、練習が足りないと感じて、自主トレをはじめた。基礎体力をつけるための走り込み。夜、家の周囲にコースを定めて一時間ほどやった。効果がすぐに出て好調だった。疲れを感じることも全然なかったんだけど、どうやら膝には負担になっていたようだ。練習試合でボールを追っている途中に左膝がずれるような感覚があり激痛に叫んで倒れた。病院でしばらく安静にと言い渡されるが、あせる。はやく治して活躍したい。それが最悪だった。治りかけで練習再開して、同じ部分を痛める、ということを三回繰り返して、ついに靭帯が切れた。


 でかい病院に入院することになる。ずいぶん大袈裟なことになってしまった。友達がお見舞いに、と言ってくれたのはCDシングル「ウォーウォートゥナイト」だった。二人部屋でカーテンで仕切られた向こうにいたのは、バイク事故で足を吊っている南君という非常に界隈で有名なヤンキーだった。タバコを吸い、看護婦さんをからかっていた。
 入院中、親に『クレヨンしんちゃん』を全巻買ってきてもらい読んだ。軽いものを欲していたのだ。南君が私に干渉したのは一度だけ。「なんでそんなの読んでるの?これ貸してやるから読みな」と言って『クローズ』を全巻渡された。貪るように読んだ。むちゃくちゃ面白かった。


 無事に済んだ手術のあと病室で観ていた「笑っていいとも!」が変になった。タモリたちが緊迫している。オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生していた。


 時が流れ、私はいま奇妙なフットサルチームに加盟している。FC重版。某作家さんと出版社、夏葉社の島田さんを中心としている。たまに吉祥寺ロフトの屋上にあるコートでプレイする。全力で走れなくても、とても楽しい。


 はたして、もずくはサッカーをするだろうか。体を動かすのは好きなようだ。公園に連れてってやると喜々として走りまわる。すべり台などの遊具もたのしんでいるけど、むやみに駆けまわってるときに見せる顔とちょっとだけ違う。当たり前のことだけど遊具には遊び方があってそれを推し量ってしまう。それで生じる「遅れ」が少しの迷いになっているような気がする。迷うことの積み重ねがきっと成長にもなるのだろう。だけど今、それよりは満面の笑顔を保って走りまわるもずくを見ていたい。「おとーさーん!」と息を弾ませドタドタ走ってくる体のわきを抱えて、ぐいっと持ち上げる体力がこちらにあるうちは。

   


   


   


<プロフィール>
●ソーダ書房(そーだしょぼう)
書店員、花本武(社長)と作家、山崎ナオコーラ(副社長)以上二名で構成する組織。本にまつわる諸々の活動を行う予定です。


●花本 武(はなもと たけし)
1977年東京生まれ。都内某書店勤務のかたわら詩作やそれを朗読する活動をたまに行う。一児の父。


●山崎ナオコーラ(やまざき なおこーら)
作家。1978年生まれ。性別非公表。2歳児と夫と東京の片隅で暮らす。著書に、小説『美しい距離』『偽姉妹』、エッセイ『母ではなくて、親になる』など。目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。


挿画:ちえちひろ

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