眞鍋太一

未来に繋いでいきたい「今の1ページ」
2025/06/17
あなたにとっての「今の1ページ」と題して、未来に繋いでいきたい、大切にしたいもの・こと はなんですか?
眞鍋太一

「晴耕雨読」という言葉が好きだ。憧れすらある。


世間の煩わしさからはなれて田舎で悠々自適に暮らすことを意味するらしいが、

実際の田舎暮らしは思い描くほどスローなライフではない。


「晴耕雨読」という言葉に、知性あふれる農家の姿、

脈々とつづく豊かな里山の情景をみている。


2016年に徳島県の神山という山あいのまちで仲間たちと農業の会社をはじめた。

その時に出会ったのが地域の農の暮らしと食文化を受け継ぐ『神山の味』という本だった。


この本は、戦後つくられた神山の「生活改善グループ」という農婦たちの会によって1978年に出版されている。変わりゆく時代を憂い、郷土の食を受け継ぐ熱い想いが序文の彼女たちの言葉からひしひしと伝わってくる。


「うけつがれた味」と「新しい味」の前・後編。


郷土のレシピを主に、それにまつわるエッセイ集となっている。「じんぞく」(川の小魚)など、その土地に暮らさないと知りえない食材がふんだんに使われており、素材の話や調理方法に思いをめぐらすだけで当時の農の暮らしの情景が目に浮かんでくる。


偶然にも50年ほど前、PARCO出版と同時代に生まれた『神山の味』が、私たちの活動の原動力になっているのは興味深い。


半世紀のあいだPARCO出版は、渋谷という大都市を基点に出版というものづくりを通じて多くの芸術家たちに影響を与えつづけてきた。農の暮らしを受け継ぐ『神山の味』もまた、50年の時を経て、神山での私たちのものづくりに活力をあたえ続けている。


都市における出版という生業は、農の暮らしを地方で育むことと同様に、人の心に種を蒔き、文化を育て、時代を豊かな土壌へと耕していく農的な活動とも言えないだろうか。


激動の時代を生きる身として、田舎と都市、生産と消費の分断をこえ、農婦たちが当時懐いた熱意を持って、多様な文化圏の人たちと共に、50年後の「晴耕雨読」の情景を描いていきたいのだ。

 

(PARCO出版50周年イベント「One Page BOOKSTORE -1ページの本屋- 」に寄せて)

 

 


眞鍋太一 / Taichi Manabe
農業法人フードハブ・プロジェクト 共同代表取締役 支配人 /Food Hub Project Inc. Co-CEO
㈱モノサス 代表取締役社長 / Monosus Inc. CEO
RichSoil & Co.支配人/ RichSoil & Co. Operations Director
Nomadic Kitchen 支配人 / Nomadic Kitchen Organizer


1977年生まれ。愛媛県出身。アメリカの大学でデザインを学び、東京で広告業界に10年ほど従事。WEB制作会社の ㈱モノサスに勤めながら、2012年より東京の料理人たちとNomadic Kitchen を始動。2014年3月より妻子と徳島県神山町に移住。2016年4月より地域の農業を次世代につなぐ「Food Hub Project」を、神山町役場、神山つなぐ公社、モノサスと共同で立ち上げ、2021年4月より共同代表取締役 支配人を務める。同プロジェクトで2018年度グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)受賞。2019年11月よりChez Panisseの元総料理長 Jerome Waagが立ち上げた RichSoil&Co. に支配人として参画。清澄白河にある小さな生産者とともにあるレストラン “the Blind Donkey”と代々木の“CIMI restorant”を同社で経営。2024年より㈱モノサスの代表取締役社長に就任。